東京地方裁判所 昭和59年(ワ)2788号 判決 1986年5月09日
原告
村田晋
被告
高杉茂子
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自、三七九八万五三六一円及び内三六九八万五三六一円に対する昭和五六年三月二〇日から、内一〇〇万円に対する被告高杉茂子は昭和五九年三月二四日から、被告杣澤満浩は昭和五九年三月三一日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの、その余を原告の、各負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自、八八八七万四二一八円及び内八七八七万四二一八円に対する昭和五六年三月二〇日から、内一〇〇万円に対する被告高杉茂子(以下「被告高杉」という。)は昭和五九年三月二四日から被告杣澤満浩(以下「被告杣澤」という。)は昭和五九年三月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五六年三月二〇日午後一〇時四五分ころ
(二) 場所 静岡県御殿場市大坂三一七番地の二号先路上(以下「本件事故現場」という。)
(三) 加害車両 普通乗用自動車(静岡五六つ七九八九)
右運転者 被告杣澤
(四) 態様 原告が、駐車車両の脇に立つていたところ、加害車両にはねとばされて傷害を負つた。
(右事故を、以下「本件事故」という。)
2 責任
(一) 被告高杉は、加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。
(二) 被告杣澤は、前方不注意及び速度違反の過失によつて本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条の規定に基づき、原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。
3 原告の傷害、治療経過及び後遺障害
(一) 原告は、昭和一三年九月三日生まれで本件事故当時満四二歳の男子であつたところ、本件事故により、脳挫傷、右膝骨折、右膝内側側副靱帯損傷の傷害を負い、次のとおり病院に入通院して治療を受けた。
(1) 本件事故当日である昭和五六年三月二〇日に御殿場病院に入院。
(2) 翌二一日から同年九月三〇日まで共立蒲原総合病院に入院。
(3) 翌一〇月一日から同年一一月一二日まで東京慈恵会医科大学付属病院(以下「慈恵医大病院」という。)の整形外科に実日数一四日、脳外科に実日数六日通院。
(4) 右足に挿入されていた金属を摘出するため、昭和五七年一一月二二日から同年一二月一八日まで東京掖済会病院に入院。
(5) そのほか、外傷性てんかんの予防のため、昭和五六年一〇月一四日から昭和六〇年一一月二五日までの間に、慈恵医大病院に実日数五八日通院。
(二) しかしながら、原告の傷害は完治せず、昭和五六年一一月一二日症状が固定し、左眼の視力喪失、右足関節の機能障害の後遺障害が残り、外傷性てんかんの症状が生涯消失しないため現在も抗てんかん剤を服用している状況にあり、右後遺障害について、自賠責保険の査定により自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)七級一号に該当する旨の認定を受けた。
4 損害
(一) 治療関係費 一九八万二二二三円
原告は、前記傷害の治療関係費として、次のとおり合計一九八万二二二三円の損害を被つた。
(1) 昭和五六年三月二〇日の御殿場病院における治療費 五万一三三〇円
(2) 昭和五六年三月二一日から同年八月三一日までの共立蒲原総合病院における治療費中、健康保険以外の自己負担分 二五万二三六〇円
(3) 昭和五六年三月二一日から同年八月三一日までの付添代 一五七万四一三三円
(4) 昭和五六年八月二一日から同年九月三〇日までの室料 四万四〇〇〇円
(5) 東京掖済会病院入院費用中の本人負担分 七五五〇円
(6) 文書料 六〇〇〇円
(7) 膝装具代 四万六八五〇円
(二) 休業損害 七八〇万円
原告は、富士ランド株式会社に勤務して、給与月額四五万円、賞与年額三六〇万円(年二回、各一八〇万円)の収入を得ていたところ、本件事故による受傷のため、事故の翌日である昭和五六年三月二一日以降休業したうえ、同年一〇月中旬ころ同会社からの退職を余儀なくされ、症状固定日(同年一一月一二日)ののちである同年一二月三一日までの間収入を得られなかつた。
したがつて原告の休業損害は、次の計算式のとおり、給与九か月と三分の一か月分及び賞与二回分の合計額七八〇万円となる。
45万×(9+1÷3)+180万×2=780万
(三) 逸失利益 七八一一万八四八八円
原告は、前記の後遺障害のため、労働能力を少なくとも五六パーセント喪失したから、前記富士ランド株式会社勤務当時の年収九〇〇万円を基礎とし、労働能力喪失期間を二四年として、新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は七八一一万八四八八円となる。
900万×0.56×15.4997=7811万8488
なお、原告が、富士ランド株式会社から退職を余儀なくされたのち、他に就職して、現実に得た収入は、昭和五八年が一か月当たり七万円、昭和五九年が一か月当たり約九万六〇〇〇円、昭和六〇年が一か月当たり約二四万九〇〇〇円であるから、富士ランド株式会社勤務当時の収入と対比すると、五六パーセント以上の逸失利益があることが明らかである。
(四) 慰藉料 一〇一六万円
前記原告の傷害の部位、程度、入通院の期間、実日数、後遺障害の部位、程度等を総合すると、原告の傷害及び後遺障害による慰藉料は一〇一六万円が相当である。
(五) 損害のてん補 一〇一八万六四九三円
原告は、前記傷害に対するてん補として、自賠責保険から後遺障害分八三六万円、傷害分一二〇万円、被告らから六二万六四九三円の支払を受けた。
(六) 弁護士費用 一〇〇万円
原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、これにより一〇〇万円の損害を被つた。
5 よつて、原告は、被告ら各自に対し、本件事故による損害賠償として、八八八七万四二一八円及び内弁護士費用を除く八七八七万四二一八円に対する本件事故発生の日である昭和五六年三月二〇日から、内弁護士費用一〇〇万円に対する訴状送達の日の翌日である被告高杉は昭和五九年三月二四日から、被告杣澤は昭和五九年三月三一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実中、(一)ないし(三)の事実、及び(四)のうち原告が本件事故で傷害を負ったことは認めるが、事故の具体的態様は否認する。
2 同2の事実中、被告高杉が、加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であることは認めるが、その余は否認し、被告らの責任は争う。
3 同3の事実中、原告が、昭和一三年九月三日生まれで本件事故当時満四二歳の男子であったところ、本件事故により、脳挫傷、右膝骨折、右膝内側側副靱帯損傷の傷害を負い、本件事故当日である昭和五六年三月二〇日に御殿場病院に入院し、翌二一日から同年九月三〇日まで共立蒲原総合病院に入院したことは認めるが、その余は不知。
4 同4の事実中、(一)のうち原告が昭和五六年三月二〇日御殿場病院における治療費五万一三三〇円、昭和五六年三月二一日から同年八月三一日までの共立蒲原総合病院における治療費中、健康保険以外の自己負担分二五万二三六〇円、昭和五六年三月二一日から同年八月三一日までの付添代一五七万四一三三円、膝装具代四万六八五〇円を各支出したこと、及び(五)の損害のてん補の事実は認めるが、その余はいずれも不知。
5 同5の主張は争う。
三 抗弁
1 免責
本件事故は、原告が、進行中の加害車両の直前を、いきなり道路センターライン付近から横断したことが原因で発生したものであり、被告杣澤は、自動車運転者に通常要求されている程度の前方注視義務を尽くしていたから、同被告には何ら過失はない。本件事故に関する刑事処分手続においては、被告杣澤が本件事故現場手前で被害者を発見することが可能であったとされているが、捜査段階で行われた本件事故現場における実験は、いずれも事故現場手前から徐行したうえ、被害者に想定した人物をいつ発見できるかということにのみ注意を向けた状態で行われたものであつて、現実には、右実験結果よりも遙かに被害者の発見は困難であつたものである。
このように被告杣澤には過失はなく、本件事故は専ら原告の右の過失によつて発生したものであり、また、加害車両には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたから、被告高杉は自賠法第三条但書の規定により免責される。
2 過失相殺
仮に、被告杣澤に何らかの過失があつたとしても、原告には、進行中の加害車両の直前を、いきなり道路センターライン付近から横断するという重大な過失があるから、過失相殺がなされるべきである。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は否認し、免責及び過失相殺の主張は争う。
原告は、本件事故当時、加害車両からみてセンターラインの反対側に佇立していたのであつて、被告杣澤の過失がなければ、本件事故は発生しなかつたものであるから、原告には過失はない。
すなわち、本件事故現場の道路は、幅員六メートルで、センターラインによつて区分され、片側の幅員が三メートルであるところ、原告は、本件事故当時、加害車両の対向車線の外側線付近に停車中の勝又満「以下「勝又」という。)運転の自動車(以下「勝又車」という。)の脇に佇立していたものであり、勝又車の車幅は一・七メートルであるから、原告が、加害車両からみてセンターラインの反対側に佇立していたことは明らかである。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)の事実中、(一)ないし(三)の各事実及び(四)のうち原告が本件事故で傷害を負つたことはいずれも当事者間に争いがない。
また、請求原因2の事実中、被告高杉が、加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、被告杣澤の過失の存否及び被告高杉の免責の抗弁について判断する。
成立に争いのない乙第一号証の一ないし一三、証人勝又満の証言、原告、被告杣澤各本人の尋問の結果によれば、
1 本件事故現場の道路は、国道二四六号線方面(北方)から駒門自衛隊方面(南方)に通じるコンクリートによつて舗装された平担な道路で、全幅員約八・五メートル、両側にある白色外側線の内側の車道幅員約六メートルで、センターラインによつて二車線に区分されており、片側車道幅員は約三メートルで、最高速度時速四〇キロメートル、追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止の各規制がなされており、本件事故現場付近は直線で見通しは良好であるが、本件事故当時は、夜間で、飲食店「ひろ田」の明かり等があつたものの、事故現場付近は比較的暗く、また、本件事故当時は交通量は少なく、路面は乾燥していたこと、
2 被告杣澤は、加害車両を運転して、国道二四六号線方面から駒門自衛隊方面に向かつて時速約四〇キロメートルで自車線のセンターライン寄りを進行して、本件事故現場の手前に差しかかり、対向車線に停止している勝又車を約一七・五メートル以上手前で発見したが、人影は見えなかつたので、そのまま進行したところ、勝又車の運転席脇付近から横断しようとして加害車両の進行車線に若干出てきた原告を衝突地点の約四・一メートル手前で発見したが、急制動の措置を採る余裕もないまま、加害車両の前部やや右側を原告に衝突させたこと、加害車両は、衝突地点の約二八・八メートル前方に停止したこと、本件事故現場の路面には、加害車両のスリップ痕は残されていなかつたこと、
3 原告は、事故現場道路の西側にある飲食店「ひろ田」で勝又らと食事をしたのち、一旦本件道路を横断して道路の反対側に渡つたが、同店前付近の道路上に停車中の勝又車の運転席脇まで戻つて、同車運転席にいる勝又と窓越しに会話をしたのち、再び道路の反対側(東側)に横断しようとして、身体を反転させて、センターラインから加害車両進行車線に若干出た付近で加害車両に衝突され、一旦加害車両のボンネツト上にはね上げられたのち、衝突地点の右斜め前方約一五・五メートルの対向車線上に転倒したこと、原告の服装は紺色の上下で、原告は、当時飲酒していたが、身体がふらつくような状態ではなかつたこと、
4 勝又は、飲食店「ひろ田」で原告らと食事をしたのち、勝又車を同店前付近の本件事故現場路上に出し、駒門自衛隊方面から国道二四六号線方面に向う車線上の道路外側線付近に寄せて、スモールランプを点燈させた状態で勝又車を停車させたところ、同車運転席脇に原告が来たので窓越しに会話をし、原告に別れの挨拶をしたころ、加害車両が進行してくるのに気付き、同車運転席脇から離れようとする原告に対し、「前から車がきていますから気を付けて下さい」と言つたが、これとほぼ同時位に本件事故が発生したこと、勝又は、衝突の瞬間までは目撃していないこと、
5 昭和五七年一月六日の夜間に、御殿場警察署の警察官において、勝又車の事故当時の停止位置付近に普通乗用自動車を停止させてスモールランプを点燈させ、同車の運転席脇のセンターライン付近に原告の本件事故当時の服装と類似した紺色の衣服を着用した勝又を佇立させ、被告杣澤に加害車両を運転させて、国道二四六号線方面から徐々に本件事故現場に接近させる方法により、加害車両運転中の被告杣澤から佇立している人物を発見しうる位置を測定する実験を行つたところ、加害車両の前照燈を上向きにした場合、人物であることは判らないが障害物があることが判る地点は三九・〇メートル手前、障害物が人物であることが判る地点は二九・〇メートル手前であり、前照燈を下向きにした場合、人物であることは判らないが障害物があることが判る地点は一九・八メートル手前、障害物が人物であることが判る地点は一二・九メートル手前であつたこと、また、右状況のもとにおいて、佇立している勝又から加害車両の照明を認識しうる距離を測定する実験を行つたところ、加害車両の前照燈を上向きにした場合、車両であるか否かは判らないが明かりを感じるのは加害車両が七五・〇メートル手前のときであり、加害車両の前照燈を下向きにした場合、明かりを感じるのは加害車両が五三・〇メートル手前のときであつたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる確実な証拠はない。
右の実験は、極めて低速度で進行しつつ専ら勝又車の傍らに佇立している人物の発見に注意を向けた状態で行われている点において、通常の走行状態と異なる状況の下における実験であり、また、加害車両が、前照燈を上向きにしていたか下向きにしていたかは明確でないものの、前掲乙第一号証の一二によれば、通常の速度で走行中の場合は、人物を発見することはできるけれども、その発見地点を固定することが困難であるため、右のような実験方法が採られていることが認められることを合わせ考えると、右の実験結果を軽視するのは相当でないものというべきであり、右実験結果を含めた右認定の諸事実を総合すると、被告杣澤において、一層前方を注視しつつ、かつ、自車線のセンターライン寄りを走行するのでなく、左側寄りを進行するなどの配慮をしつつ走行していれば、より手前で原告を発見して急制動や左転把の措置を採ることによつて、事故の発生を回避することができたものと推認することができ、にもかかわらず、被告杣澤が、対向車線に停止している勝又車を約一七・五メートル以上手前で発見しながら、そのまま自車線のセンターライン寄りを進行して、約四・一メートル手前に至つてはじめて原告を発見し、急制動の措置を採る余裕もないまま、加害車両の前部やや右側を原告に衝突させたことは、前示のとおりであるから、被告杣澤には、前方不注視及び勝又車との間隔を十分に開けて走行しなかつた過失があるものというべきである。
右のとおり、被告杣澤に過失がなかつたとは認められないから、被告高杉の免責の抗弁は理由がない。
したがつて、被告杣澤は、民法第七〇九条の規定に基づき、被告高杉は、自賠法第三条の規定に基づき、それぞれ本件事故によつて生じた損害を賠償する責任があるものというべきである。
一方、右認定の事実によれば、原告は、勝又車の運転席脇から道路を横断しようとする際、通行車両の存在に注意を払つていれば、加害車両が進行してくるのを発見して、事故の発生を回避することができたものと認めることができるから、原告には、通行車両の存在に注意を払わず、加害車両が接近してくるのに気付かないまま、加害車両の直前を横断しようとした過失があるものというべきであり、右の原告の過失と、前示の被告杣澤の過失を対比すると、原告には、本件事故の発生につき、四割の過失があるものと認めるのが相当である。
三 次に、原告の傷害、治療経過及び後遺障害について判断する。
1 原告が、昭和一三年九月三日生まれで本件事故当時満四二歳の男子であつたところ、本件事故により、脳挫傷、右膝骨折、右膝内側側副靱帯損傷の傷害を負い、本件事故当日である昭和五六年三月二〇日に御殿場病院に入院し、翌二一日から同年九月三〇日まで共立蒲原総合病院に入院したことは当事者間に争いがない。
そして、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一八、第一九号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五六年一〇月一日から同年一一月一八日までの間に慈恵医大病院の脳神経外科に実日数六日、同年一〇月一九日から同年一一月一二日までの間に同病院の整形外科に実日数一四日、同年一〇月一四日から同年一一月一二日までの間に同病院の眼科に実日数四日、それぞれ通院して治療を受けたこと、次いで原告は、右足に挿入されていた金属を摘出するため、昭和五七年一一月二二日から同年一二月一八日まで東京掖済会病院に入院したこと、そのほか、原告は、外傷性てんかん予防のため、昭和五六年一〇月一四日から昭和六〇年一一月二五日までの間に、慈恵医大病院に実日数五八日通院して抗てんかん剤の投薬を受けたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 前掲甲第二号証の一ないし三、弁論の全趣旨により原本の存在とその成立を認める甲第一七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告の傷害は完治せず、昭和五六年一一月一二日慈恵医大病院の整形外科及び眼科において症状固定の診断を受け、左眼の視力喪失、右足関節の機能障害等の後遺障害が残り、右後遺障害について、自賠責保険の査定により併合して等級表七級に該当する旨の認定を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
四 進んで、損害について判断する。
1 治療関係費 一九八万二二二三円
原告が昭和五六年三月二〇日の御殿場病院における治療費五万一三三〇円、昭和五六年三月二一日から同年八月三一日までの共立蒲原総合病院における治療費中、健康保険以外の自己負担分二五万二三六〇円、昭和五六年三月二一日から同年八月三一日までの付添代一五七万四一三三円、膝装具代四万六八五〇円を各支出したことは当事者間に争いがない。
そして、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第八号証の一、二、、弁論の全趣旨により原本の存在とその成立を認める甲第一二ないし第一四号証によれば、原告は、共立蒲原総合病院における昭和五六年八月二一日から同年九月三〇日までの室料として四万四〇〇〇円、文書料として六〇〇〇円を各支出したことを、また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第九号証の一ないし四によれば、原告は、東京掖済会病院入院費用中本人負担分として七五五〇円を支出したことを、それぞれ認めることができ、右各認定に反する証拠はない。
以上の治療関係費の合計は一九八万二二二三円となる。
2 休業損害 五八四万三八三五円
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一〇号証の一、二、第二〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、ゴルフ場、別荘等を経営する富士ランド株式会社に御殿場事業所担当取締役として勤務して、顧客の接待やゴルフを共にするなどの具体的業務に従事し、給与月額四五万円、賞与年額三六〇万円(年二回、各一八〇万円)の収入(年額九〇〇万円)を得ていたところ、本件事故による受傷及び左眼失明、右足機能障害のため、事故の翌日である昭和五六年三月二一日以降休業したうえ、同年一〇月ころ同会社からの退職を余儀なくされ、症状固定日である同年一一月一二日までの間(二三七日間)収入を得られなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない
右の事実によれば、原告は、休業損害として、次の計算式のとおり、五八四万三八三五円(一円未満切捨)の損害を被つたものというべきである。
900万×237÷365=584万3835
3 逸失利益 六二〇九万三七〇〇円
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第二一号証の一ないし三及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、富士ランド株式会社の退職を余儀なくされたのち、前示の後遺障害のため容易に就職することができなかつたが、昭和五八年六月一日に富士ランド開発株式会社に就職して、ゴルフ会員券売買の仕事に従事するようになつたこと、しかしながら、これによる収入は、昭和五八年六月一日から同年一二月未日までが四九万円、昭和五九年の一年間が一一六万円にすぎなかつたこと、原告は、前示の後遺障害のため、顧客とゴルフを共にすることができないことや接客上不自由がある等のため、昭和六〇年四月末日富士ランド開発株式会社を退職して、現在無職であり、適職を探している状況にあることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実に、前示の原告の後遺障害の内容、程度、本件事故当時の稼働状況等を総合すると、原告は、前示の後遺障害のため、症状固定時である満四三歳から満六七歳までの二四年間、その労働能力を少なくとも五〇パーセント喪失したものと認めるのが相当であるから、前示富士ランド株式会社勤務当時の年収九〇〇万円を基礎とし、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は六二〇九万三七〇〇円となる。
900万×0.5×13.7986=6209万3700
4 慰藉料 八七〇万円
前示の原告の傷害の部位、程度、入通院の期間、実日数、後遺障害の部位、程度、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、原告の傷害による慰藉料は二〇〇万円、後遺障害による慰藉料は六七〇万円をもつてそれぞれ相当と認める。
5 過失相殺
以上の原告の損害は合計七八六一万九七五八円となるところ、本件事故の発生につき原告に四割の過失があることは前示のとおりであるから、右損害額から過失相殺として四割を控除すると、残損害額は四七一七万一八五四円(一円未満切捨)となる。
6 損害のてん補 一〇一八万六四九三円
原告が、本件事故による損害に対するてん補として、自賠責保険から後遺障害分八三六万円、傷害分一二〇万円、被告らから六二万六四九三円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、前示残損害額から右損害てん補額合計一〇一八万六四九三円を控除すると、残額は三六九八万五三六一円となる。
7 弁護士費用 一〇〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任したことが認められるところ、本件事案の難易、審理経過、前示認容額等本件において認められる諸般の事情を考慮すると、原告の請求する弁護士費用一〇〇万円は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。
五 以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、被告ら各自に対し、三七九八万五三六一円及び内弁護士費用を除く三六九八万五三六一円に対する本件事故発生の日である昭和五六年三月二〇日から、内弁護士費用一〇〇万円に対する本件事故発生の日ののちである被告高杉は昭和五九年三月二四日から、被告杣澤は昭和五九年三月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林和明)